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2022年1月27日 (木)

妄想する左手奏法

 ある事がきっかけで日本音楽研究家の茂手木潔子先生のお宅が我が家から歩いてわずか数分の超ご近所だという事を知り、伺いしました。
 話はつきませんでしたが、まず箏の左手奏法について。1970年代に茂手木先生が国立劇場で演出家の木戸敏郎さんの助手をしていた時の興味深い話を聞くことができました。1977年に、木戸さんがドイツの作曲家シュトックハウゼンに雅楽の新作を委嘱した時に、雅楽の横笛の音域や、笙の合竹(和音)の種類、そして弦楽器の奏法についての資料を茂手木先生が作って送ったのだそうです。そして、出来上がった曲を見たら、雅楽の箏の左手奏法が書かれていて、木戸さんも宮内庁の演奏家も当惑されたそうです。というのも雅楽の箏は、左手を使わなかったからです。資料には左手奏法を書かなかったそうですが、ドイツの作曲家は、当然左手も使っているはずだと思ったのです。確かに、左手を使わないのは変だと気付いた木戸さんが、様々な古文献を調べて、実は応仁の乱以前には左手奏法があったのに、応仁の乱に貴族たちが駆り出された結果、左手奏法が廃絶してしまったことを突き止めました。このことを宮内庁の楽師に説明し楽師は納得してシュトックハウゼンの曲を弾いたそうです。
  私を始めとする箏演奏家が弾く古典と言われる曲の殆どは、おおよそ300年ほど前のものが多く、それは主に江戸時代ということになります。そこには音色を豊かにする左手による奏法がとても多く含まれています。曲によっては、ほぼ左手の奏法による表現で曲の良し悪しが決まるという作品さえあります。その奏法が突如江戸時代に百花繚乱のごとく用いられるようになった、とは日々を箏と共に過ごしている私からみるとどうも不自然。なんらかの形でまた徐々に育まれていった、と考えるのが自然です。しかしながら、茂手木先生が研究している葛飾北斎時代の音楽の実態について『北斎漫画』全3巻を調べたところ、仏教楽器である錫杖(しゃくじょう)を持った僧侶が9点、他の金属製打楽器などの仏教楽器が23点、また、北斎は馬の鈴が好きだったらしく、馬の場面には必ず鈴。三味線については15点描かれていました。それに比べ箏はたった2点。七弦琴は4点しか登場していません。その数の少なさが興味深いです。北斎が生きていたとされる1760年〜1849年の江戸時代に左手奏法が花開いたと言っても過言ではないと思うのですが、茂手木先生によれば、『北斎漫画』から判断しても、箏はそれほど一般的な楽器ではなかったのではないかと言います。一部の人たち(階級と考えるのが自然でしょうか)の音楽だった。それ故、資料が少ないのでは、と。ますます妄想にかられました。
 写真は弘前のイタコさんが使っていた梓弓を茂手木先生が複製したもの。
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 箏の原型のようです。浅草の岡田屋布施の社長さんに復元してもらったそうです。昭和50年代までの青森のイタコさんたちの中には、梓弓を使って霊を呼び寄せる方もいましたが、現在は梓弓を使うイタコさんはいないようです。本物の弦は麻の糸というか紐。この弓には実験的に楽箏の絹糸が張ってありました。細い竹の棒で打つとかすかにびゅん、びゅんと鈍い弱音がします。しかし麻の絃はさらに弱音だそうで、この自然に溶け込むようなかそけき音で果たして霊は降りてくるのか、と思うほどでした。現在は主に太鼓で例を呼ぶイタコさんがほとんどだそうです。
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 桶づくりの方法で作られた秋田県のホラ貝「木貝」です。角館の「竹合戦」で合図として吹くそうです。風呂桶屋さんが作ったそうで、吹く部分は風呂桶の栓でした。
 
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 博物館も驚きの楽器の数々。

 茂手木先生と音楽評論家 ・プロデューサーMarkとの話は、そのままラジオ番組にできるのではというほど面白かったです。いつかラジオなどでぶっぱなしたいですね。
 かつて茂手木先生が大学で教えていた当時にお世話になった頃と違い、今の私は自分の音楽を箏で表現していますが、貴族でもなんでもなかった私の祖先がとても豊かな音を創造していたという事を知り、明日への力を頂きました。
 この場を借りて感謝申し上げます。

 さて、2月8日(火)に『朝日カルチャー ボンクリ・アカデミー箏編』を担当させていただきます。是非ご聴講ください。久しぶりにマスクをとってお話できる貴重な機会で私自身とても楽しみにしています。

 次のLiveは2月26日(土)です。

『八木美知依ソロ』
会場: 下北沢Lady Jane
開場17:00、開演17:30〜
料金: 3,200円(予約2,700円)+ドリンク代

 お待ちしております!

 音楽評論家の横井一江さんが『このパフォーマンス2021』に本田珠也さんとのDuo「道場」のLiveを選んでくださいました。こちらです。
 
最後までお読み頂きありがとうございました。

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